冬来たりなば…
 (ラバヒルSSSvv)
 


クリスマスまでは何とか暖かい方の冬だったものが、
一転して大みそかは極寒となり、しゃれにならない寒波が日本中を襲った。
落差が大きかったから余計にとんでもない寒さに感じられ、
こんな中で迎える正月か〜なんて言ってたものが、
明けると…またまた一転しての、いいお天気に恵まれて。
松の内が明けたばかりの今なんて、三月くらいの陽気とやらがやって来て、
曇りのない空からほかほかと、春先のような陽光が降りそそいでる。
今年の冬は暖冬でもないが、かといって厳冬でもないと、
もしかしてどっちかだと断言しといて外れたら問題なのかなと思ったくらい、
どこの気象予報士さんもどこか曖昧な言いようをなさってたけれど、
ああ、あれってこういうことかと今頃になって納得していたりする。



 「オールバック。」
 「なんか、どっかの族の総長みてぇだな。」
 「じゃあ七三。」
 「似合うと思うか?」
 「サイドを流してサーファー。」
 「古臭せぇ。」
 「ナチュラルショート。」
 「単なる手櫛かよ。」

第一、この長さは“ショート”じゃなかろうと言い返されて、
「う〜〜〜。」
じゃあじゃあと考えてるうち、肝心な素材が乾き始めたので、
あららこれはいかんと、急いで整髪料を手にとっての………。

 「口惜しいなぁ。」
 「何がだ。」
 「だって、結局はこのスタイルが一番落ち着くんだもの。」

ぶつくさ言いつつ、それでも手慣れたもの。
セット用のムースを馴染ませ、
ローリングブラシとドライヤーでてきぱきと上へ上へと梳き上げてゆき、
すぐの手元へ出来た頭は…いつもの鋭角なとげとげヘアーと来たもんで。

 「セットしちゃうと触らせてくんないし。」
 「ったりめぇだろが。」

雨に打たれたってそう簡単には崩れない、
特別仕様の超ハードなスタイリング剤を使っての、
お出掛けVer.やゲーム日Ver.とは違って。
今日は一日のんびり過ごす腹積もりだからと、
朝のシャワー後、ほれと手渡されたのが、ごくごく普通のセット用。
だったので、ちょっとひらめいてのご提案。
じゃあ今日は変わった髪形にしてみよっかなんて持ちかけたまでは良かったが、
結果がこれだもの、笑えない。

 “見慣れてるからってのもあるんだろうけれど。”

寄るな触るなと威嚇睥睨するために効果があるよう、
それでと選んだのだろう、
挑発的で恐持てのする、彼の外見のその一部。
ホントはこんな蓮っ葉な人じゃないと、重々判ってる自分だのにね。
なのに、この恰好が一番馴染みがあるってのはどうよと、

 「〜〜〜。」

あまりにもがっくりが大きそうな、
いかにもへちょりと眉を下げてしまった桜庭だったのへ、
多少は…可哀想にと思ったか。
それとも情けなさ過ぎて閉口したか。

 「何だったら、さっきの最後のナチュラル何とかまでほぐすか?」

覇王様にはめずらしくも、気を遣って下さったようだったけれど。

 「………やだ。」
 「なんだよ、やだってのは。」

何でそこで、しかも彼の側からのブレーキがかかるかなと。
これには正直、意外さしか拾えなくって。
怪訝に感じたらしい蛭魔が、なあと、鏡越しに問いかければ。

 ――― だってさ、と。

洗面所と呼ぶには随分と広々していて明るくて、
白と黒の大理石をバランス良く配したところが何とも瀟洒な。
高級スパのスィートルームのサニタリーのよな作りの空間に、
愛しい人の薄いめの肩へ、ぽふりと乗っかった亜麻色の頭の陰から、
くぐもった声が聞こえて来。

 「さっきちょこっとやってみただけで、凄んごく色っぽかったから。」

まだ朝だってのに、あんなヨウイチを前にして、

 「理性を保つ自信がありません。」
 「………馬鹿だろう、お前。」

首条にあたる、まだ湿ったままな相手の髪がくすぐったかったか、それとも。
馬鹿かと一蹴したそんな言いようが、
でも…ふざけてなんかないそれだと、口調や声で判ったからか。
寝違えでも治すかのよに、こきっと首を傾けて、
おら退けろと、頭同士をぶつけることで、肩の上から相手を追いやり、

 「あたた…☆」

たじろいだアイドルさんをその場へ残し、自分は踵を返して居間へと向かう。
ここは蛭魔が自宅として使っているマンションで、
まだ松の内の間なのでどこのグラウンドも使えずの、已なくのオフの最終日。
桜庭もまた、年末からこっちのずっと、その身が空いているからということで、
暮れからこっちを此処で一緒に過ごした二人だったりし。

 『そうか、とうとうお祓い箱か。』
 『ひどいなぁ。』

年末年始のテレビ業界は、昔ほど録画した番組ばかりじゃなくなったけれど。
それにしたって俳優の出番は少ないもの。
新春ドラマの類いはとうに収録が済んでいるし、
そもそも生出演といや、芸人さんとかMCが上手なタレントさんが活躍する場だ。

 『ドラマ紹介の番組もなくはないけど。それもほとんどが録画だしね。』

だから構ってやって下さいと、クリスマスに懇願されて、
仕方がないかと折れてやった蛭魔だったが、

 「………。」

長居も今日までと言うことで、
クロゼットにしまってた着替えや何や、
持ち物を移動用のドラムバッグのほうへと片付け始めてる桜庭なのに気がついて。
それへと仄かにむかつく自分こそが、一番腹立たしかったりし。
甘えていけない相手じゃない。
唯一の一番、蛭魔の素顔や何やを何でも知ってる桜庭で。
それらは無理から覗かれたものじゃあなく、
彼の粘り強い優しさが、
少しずつ少しずつ蛭魔の頑なだったところを絆していっての、
その結果として晒されたものばかり。

  だから。
  信頼していい、すがったっていい相手なのだけれど。

  何もかもに反発し続けなければ保てないような、
  反抗期の中学生みたいな、
  そんな情けない矜持で立っている自分じゃあないのだ。
  立ち止まったり何かへ凭れたりしても、
  この覇気はそうそう鈍りゃあしないのだけれど。

  でも、

  ――― 甘え始めるとキリがない、と思うほど、
       彼の懐ろは居心地が良すぎるから…。



 「…ヨウイチ?」

かけられた声にハッとして我に返ったのと、
ぱふりと、背中に暖かい重みがくっついて来たのがほぼ同時。
胸の方へと回された、堅くて強い腕。
両の肘までそれぞれの手を届かせての輪を作り、
その中へすっぽりと、捕まってしまう収まってしまう束縛が、甘くて…切なくて。

 「どうしたの?」
 「…なんでもねぇよ。」

暖房に合わせての、薄手のカットソー越し、
桜庭もまた さして厚手ではないシャツでいるから、
その頼もしい筋骨の感触がまんま背中へと伝わって来る。
不意に、小さく微笑ったか、微かな振動が伝わって来、

 「??」

どした?と訊いての、少しばかり肩越しに振り向きかけた所作が伝わったか、
なのに、彼の腕はゆるまなくて。


  「他のこと、考えちゃダメ。」

    「………。」

  「僕といる時は…こやって二人っきりの時だけは。
   アメフトのこととか、お願いだから考えちゃダメ。」

    「…さくらば。」

  「そう。僕のことだけ。
   明日どうするかってこととかも追い出して。」

    「………。」

  「でないと、僕。明日の僕にまで焼き餅を焼きそう。」


   なんだそりゃ。
   ホントだよ? そうなったらややこしいじゃないの。
   ややこしい?
   そ。明日の僕に嫉妬して、カッコいい僕じゃなくなるように頑張っちゃうかも。
   それってのは頑張るんじゃなく怠けるんだろーが。
   そうとも言うかな?


頭悪そうな言いようをして、あははと笑った優しい桜庭に、
胸がじんとしたことは…癪だから絶対に言ってやんないけれど。
うん、まだ今日は甘えてていいのだと、
肩から力を抜いての、仕切り直し。

 「…。」
 「? ヨウイチ?」

背後の胸板へこちらからも凭れ掛かって。
重心の移動におやと腕が緩んだ隙をつき、
凭れたまんまで伸び上がっての、
おとがいの終わりあたり、耳朶の縁へと肩越しにキスすれば、

 「わ…。/////////

不意を突かれてか、ぐらりと足元が揺らぎ、
あわわとよろめいてしまう誰かさんの胸に抱かれて。
一緒くたにたたらを踏んでの転げてしまったのが、
何だか無性に笑えた悪魔様だったそうですよ?




  来年の話をすると鬼が笑うというけれど。
  そんなもん、こっちからも笑い飛ばしてやりゃあいい。

  だから。

  お前とのずっとずっとを、考えてもいいと。
  そう思うことにするからな。
  ………これもまた、内緒だけどもな。






  〜Fine〜  08.1.10.


  *忘れたころのラバヒルでございますvv
   でも、寒い頃合いの彼らは、ある意味で恒例のシチュでもありますがvv
   桜庭くんは割ところころ、
   ドラゴン○ールのブルマ&ヤムチャみたく、
   髪形が変わってるお人なのですが。
   蛭魔くんにしてみたら、どんどん精悍になってく彼なのが、
   惚れ惚れするやら…ちっと口惜しいやらなんでしょうね、恐らくはvv
   そう思って書き始めたはずなのですが、
   何か、妙な方向へと逸れちゃったみたい。
   うむむ、相変わらず修行が足りませぬ。


ご感想はこちらへvv**

戻る